Monday 15 February 2016

装飾写本ワークショップ 第1日目



土曜日に、装飾写本(Illuminated Manuscript) ワークショップ実践第1日目に出てきました。実はこれ、水曜日に第1日目は始まっていましたが、その日は実践は無し。研修でウインザー城に行き、門外不出のソビエスキ時祷書(Sobieski Book of Hours)を実際に見せて貰いました。どのページにも見事に装飾の施された実物を間近に見ることが出来て、興奮のあまり眩暈がしそうでしたよ。

ちなみに装飾写本というのは、主に宗教的なストーリーラインが書かれた羊皮紙や牛皮紙(ParchmentとかVellumと呼ばれる) のページの縁取りに植物や動物モチーフの装飾が施され、ところどころに小さなイラスト、ここぞという見せ場は1ページを割いたイラストが描かれている写本です。イルミネーションと呼ばれるイラストには金箔がふんだんに用いられていて、まさに光り輝く写本という名に相応しい美しさです。



…という事で、実践第1日目。ここからは自分への覚え書き。このワークショップでは、三日間で二枚のイルミネーションを完成させる予定で、まず最初の1枚目は300gsmの水彩用紙に描きます。約10センチ 四方の水彩用紙を渡され、それをマスキング・テープで薄いボードに固定。その後、元絵(このページ一番上の写真)を水彩用紙(本紙)に移すためのトランスファー・ペーパーを作ります。


赤いピグメントをコットンに取って、画用紙の面に満遍なく刷り込んでいきます。ピグメントの名前、忘れたー。次回聞かなくっちゃ。



トランスファー・ペーパーが出来たら、本紙の上に元絵を置いて片方をマスキング・テープで固定し、元絵と本紙の間に、トランスファー・ペーパーをピグメントの面が下向きになるようにして挟み込み、元絵のもう片方の端もマスキング・テープで固定。


絵が動かないようにしっかり固定してから、元絵を5H以上の硬い芯の鉛筆で筆圧をかけてなぞっていきます。鉛筆の芯が柔らかいと、線が本紙にハッキリ写らない。また、筆圧をかけることで本紙に溝が出来るので、あとでギルディング(金貼り)用のジェッソ(下塗り兼 糊)等を塗る時の助けになります。


時々そ〜っとマスキング・テープを剥がしてトランスファー・ペーパーを持ち上げ、線がきちんと出ているか、トレースし忘れた部分はないか、確認しながら作業を進める。全ての線を写し終わったら、次に本紙に写った赤いラインをインクでなぞって固定していく。この際使ったインクは、オークの木に出来るOak gallと呼ばれるこぶに含まれる、タンニン酸と硫酸鉄を反応させて作った、先生のお手製のインク。中世、実際に使われたインクの製法にのっとったもの。



生徒によって進み具合はそれぞれなので、インクでなぞるのは、キリストの頭を優先的にやるように言われる。で、インクで全部線を固定し終わっていない人も、スケジュールの関係で次の工程入る。すなわち、キリストの頭の回りは金箔が貼られる予定なので、そこに下地となるジェッソを塗るという作業。




金箔を貼るための下地となるマニュスクリプト・ジェッソは、通常の油彩画などのジェッソとは異なり、これまた独特の材料で作られている。これも先生の手作り。薄い円板状に伸ばして乾燥させてあるジェッソを割り、小さな容器に入れてほんの少し精製水を加え、水を吸うのを待つ。 以下、ジェッソの材料。割合はまだ調べていない。

消和済み石膏(Slaked plaster)、鉛白(Lead carbonate/White lead)、魚の膠(Fish glue/Seccotine)、粉末にした氷砂糖(蜂蜜でもよかったハズ)、アルメニア・レッド・ボール(赤い色素。Armenian bole)、精製水。石膏により金箔が少し盛り上がった感じのテクスチャーになる。鉛白は石膏の分子の隙間を埋め、しっかりさせる。魚の膠を使うのは、室温で液体なため。砂糖は水分を吸い寄せるので、ジェッソを塗って乾燥させたあとに、息を吹きかけることでジェッソがやや湿り気を帯び、そこに金箔が貼りつく。砂糖は粉砂糖ではなく、氷砂糖を粉末にして使うのが水分吸収には重要らしい。アルメニア・ボールをほんの少量加える事でどこにジェッソを塗ったか分かる。赤い色なので、金の発色も助ける、と思う。



水を吸い切ったジェッソを、割り箸を使ってトントンとならして完全に溶かし、ダマが残らず均一になるように、また気泡が入らないようにゆっくりと混ぜる。このジェッソが一人一人に配られ、それをほんの少し絵の具皿に取って、気泡がある場合は丁寧に潰しておく。潰し方:針の先に丁子油(Clove Oil)をチョンっとほんの、ほんの少〜しだけ付け、その針の先で気泡を触ると、ぷんっと気泡が潰れる。オイルがジェッソに混ざるのはよろしくないので、オイルの量は極力少な目に。



まず最初に少し薄めたジェッソで光輪の縁の部分を線描きして、ジェッソを塗る境界をハッキリさせておく。絵のトランスファー時に筆圧をかけておくと、本紙に溝が出来ているはずなので、境界線に自然にジェッソがはまっていく感じになるハズ。私は鉛筆があまり硬くなかったので、かなり筆圧をかけたけれど、溝が出来ていなかった。 光輪とキリストの頭の線をなぞったら、次に実際に光輪を濃いジェッソで埋めていく。



私のワーク。光輪の部分にジェッソを塗ったところ。このジェッソをどのくらいの濃さで塗るかというのが難しくて、私は最初薄すぎたために乾くのを待って二度塗りしました。でも二度目に塗った時は濃すぎて盛り上がりすぎ、乾いたらほんの心持ちジェッソが縮んで、光輪の真ん中に薄いラインが付いている。



ところでインクで 絵を固定する時、左の元絵を見ながら描いていたのですが、どうしてもオリジナル・ジーザスの垂れまぶたの情けない顔が気に入らず、ちょっとだけまぶたをいじってみたら…なんかえらくイケメンになってしまった。それも妙に東洋風。キリストというよりは、若きブッダという感じ。



どうよこのイケメンぶり。ちょっといじっただけなのに、どうしてここまで顔が変わるかな。ひょっとしてジーザス先生、こういう風にカッコよく描いて欲しかった?なんか自分でめっちゃウケてしまって、見るたびに笑えてしまいます。ちなみにキリストの周りを取り囲んでいるのは、炎のセラフ達。

光輪部分にジェッソを塗ったら、次に周りの四角いフレーム部分にガム・アンモニアック(Gum Ammoniac) を塗ります。これも金箔の下地ですが、下地によって上に乗せる金箔の光り方が変わるということで、ジェッソだとツヤツヤな光に、ガム・アンモニアックの場合はマットな光になるそうです。作品の主題は真ん中のキリストなので、フレームに余計な注意行かないように、一段落とした光加減にするのだとか。にゃるほどぉお。このフレームも、やはりまず外の線と内の線をガム・アンモニアックで描いて境界を作っておいてから、内側を埋めるという方法を取ります。




ガム・アンモニアックを一層塗ったところでこの日は時間切れ。自分でガム・アンモニアックを買ってきて、あと二層塗っておくように、それからペン入れが終わってない人は、終わらせておくように、という宿題が出ました。マニュスクリプトはデリケートなものなので、箱に入れて持ち運ぶとヨロシイ、ということなので、この作品に合わせて箱、作りましたよ。



箱入りマニュスクリプト。

ということで続きは次回

 

2 comments:

  1. ひとつひとつの工程をきちんとしないといけませんね。緻密だ~。
    ジーザスがイケメンで笑った。
    彼にたかっている(笑)セラフも可愛い。
    仕上がりが楽しみですね。

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    1. こんな綿密な事が出来るイギリス人が絶滅していないってのが驚きですよ。私は先生に比べるとかなり雑。

      ジーザスのイケメンぶり、意図して無かっただけに私もウケてます。

      でもせっかくのイケメンが、これからの過程でどうなる事やら。

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